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制作現場の日常

似ているようで違う、シナリオ。

こんにちは、プランナーの田邉です。時々ナラティブデザイナーとも名乗っております。あ、新人ではありません。社長になったわけでもありません。

当ブログでは長らく「社長日記」と「新人日記」だけが更新されてきたのですが、今年より新人以外の社員が書く「制作現場の日常」のカテゴリが復活することになりました。(ちなみに前回の3Dエヴァンジェリストによる記事はこちらです)
今回は自分が担当ですので、ゲームシナリオ制作の実際について書いてみようと思います。ざっくりとラッフラフに書いてみようと思います。

さて。フィラメントでは毎年、新卒の方に向けて会社説明会を行っています。そこで、自分の担当分野が主に世界観やストーリーまわり全般だということをお伝えすると、“シナリオを書いたから見てほしい” “自作の小説を見てほしい”と、お願いされる場合があります。

これについては申し訳ないですが、お断りさせていただいています。(あ、企画書はすべて拝見させていただいてますので、ご遠慮なくどうぞです)
実際問題として、そういった長いテキストを読む時間が無いからなのですが、仮に時間があったとしてもお断りせざるを得ないだろうな、とも思ったりもします。
なぜなら「ゲームのシナリオってそういうものとは違うから」です。


ゲームシナリオを書く、ということは
「自分が書きたいお話を書く」のではない、ということ。

“どうして? これ絶対すごい素晴らしい話なんです! ゲームにしましょう! これなら300万ダウンロードはかたい!”と言う人がいるかもしれません。
個人的にはそういう、熱意MAXで生きてる人間はスキです。
それに「300万DLがかたい」ことを相手に信じさせられるなら、いけるかもしれません。いや、かもじゃなくてイケる。それはイケる。

でも、そのプレゼンは難しい。なぜなら…と、そのあたりはまず「ゲームシナリオの立ち上がりの過程」を見てください。めちゃめちゃざっくりですが…


① ゲームをよく知る。

例えばですが、かつて弊社が制作した「口先番長」というゲームアプリ。
開発スタート段階ではそのタイトルと「しりとりで格闘する」というゲーム要素だけが決まっていました。そんな風に最初は細かい内容も実装物もゼロだったりするわけですが、とにかく企画立案者と同程度、その企画について把握します。

② ゲームルールに一番フィットする設定を見つける。

見た目完全に不良のキャラがしりとりで争う…これをシリアスにやろうとするのはベストじゃないですよね。広がらないし、遠い。不良しりとりの良さを引き出すならコメディです。(あ、決め打ちのように書いてますが、もちろん最初はいろいろな方向を考えます)
とすると「なぜ不良がしりとりでガチで戦う世界なのか」を設定する必要があります。設定案を考えたら、そのゲームについて一番理解が深い人間=だいたいディレクター、と相談し、詰めていきます。必要あれば説得します。

③ ゲーム内容と設定に合わせて、ストーリーラインを構成する。

大体ここらへんで、ストーリーとゲームが連動した全体像がぼやぼやっと見えてきます。そのゲームの中でのストーリーの働きなどもろもろについて考えつつ、レベルデザインなどのプランをヒアリングしながらあらすじを最後まで作り、ディレクターに見せて打ち合わせ&説得しつつ、詰めていきます。

④ ストーリー画面をはじめ、語り方や語る場所などを考える。

構成を考えつつ、見せ方も考えていきます。ここからは実装やコストとも関連してきます。例えば「こういう仕様でやってほしい」と言われたり。
でもそれが良くないと思うなら「それはこういう理由でよくない。こうするのはどうですか」という実装可能な別の案、より良いアイデアを出していきます。
そうしてベストな形に着地できるまで相談&説得しつつ、詰めていきます。

あとは、実際にコメディとなるようなシナリオを書き(文章力はここから)、演出を付け、実装し…みたいな別の話になるので今回は割愛しますけども、基本的にはこんな感じでゲームのストーリーは生まれます。

それで、こんな感じに出来上がっていくわけです。


というわけで「お話だけでゲームシナリオのよしあしを見る」「お話からゲームが出来る」というのが、難しいことが伝わったでしょうか…(あ、でもストーリーとともに立ち上がるゲームもありますし、IPものはまたちょっと違ってきます。またストーリーを必要としないゲームもあります)


ストーリーもゲームの中の機能であり、より優れたゲームにおいて、ゲームとストーリーは乖離しない。

それから、ちょいちょい出てくる「説得する」。これはゴリ押しするとかではなく「なぜその設定で、そのストーリーラインなのか」ということを他の人の腑にも落とす、ということです。このためにもゲームとストーリーや世界観は同調・呼応している必要があります。
そしてここで腑に落とせないのであれば、人の気持ちに届くゲームにはならないと思うのです。だって他の人って、最終的にプレイヤーですから。

トルネフも、torneのキャラクターとしてあるべき理由からして、
紳士でオウムなのです。フ。


ゲームシナリオ書きを作家のようなイメージで目指す人は「なんだ、スキな話を書けないのか…」と思うかもしれません。ざっくりおおよそ正解です。(ただ個人的な経験で言えば、この流れで制作していくと結果的に「書きたい話」を書くことになると思います)

ゲームのシナリオ制作は例えば、広告のコピー/コンセプトづくりに似ています。
広告は「クライアントが伝えたいこと」の表現です。伝えたいこと自体が枠で、課題です。

ゲームシナリオを書くこともまた同様に、何らかの制限や課題などが強くある中で、自分なら「こんな風に楽しませる」「ゲーム体験を底上げする」「想像を超えてやろう」と企むのが楽しい仕事、という感じでしょうか。
でもそれで言うと、ゲーム制作の仕事ってすべてがそんな感じですよね。

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