ゲームのつくり方の本
不定期掲載、ゲームに関連した書籍についてつらつらと感想を語る社長の趣味と実益を兼ねた本コーナー。今回はCEDEC AWARDS 2019年著述賞に選定されたこの一冊をご紹介させていただきます。
『チェインクロニクルから学ぶスマートフォンRPGのつくり方』
松永 純 (著)
プランナー志望者に向けては「企画書の書き方」、プログラマー志望者に向けては「Unityを使った初めてのゲーム開発」といったハウツー本は、一般書店での取り扱いこそ多くないが、ゲーム業界への就業希望者が増えるにつれ、様々な本が出版されている。その多くでは著作権の関係もあり、既存のゲームは事例紹介程度で、本の中で扱われる題材はオリジナル企画やゲームであることが多い。が、今回取り上げるこの本は現在も絶賛サービス中のスマートフォンゲームが題材、かつ、その総合ディレクター自らが執筆した本である。これは相当珍しい。
過去作を振り返る、あるいは、将来的にこういったゲームを作りたい、ということは比較的書きやすい。しかし現在進行形でサービスが続いているゲームにおいて、良かったところ、悪かったところ、これから変わっていくところを伝えるのは、プレイヤー数が多いほど賛同だけでなく反論を引き起こすリスクもはらんでいるからである。何より、サービスが当分継続する前提でないとそもそも書籍化ということ自体がリスクである。それらを織り込んだうえで
「次の世代に生まれてくるゲームに、それを作る人に、それを楽しむ人に、生の声というか経験から生まれた話を届けたかった」
という作者には多大な感謝しかない。CEDECでの受賞もおそらくこの点を高く評価されたのではないか、と推測する。
本書で取り上げられている『チェインクロニクル』(以下、チェンクロ)とは2013年にセガゲームスよりリリースされたスマートフォン向けのRPG。6年経過した現在も絶賛稼働中であり、非常に息の長いゲームである。当時のスマホゲームは適度にバトルや育成要素があればRPGと言えるくらい、RPG一色になっていた。そんな中、RPGの核となる「物語体験」を、いかにスマホで実現できるかというところから開発がスタートしている。以下、本書より一部抜粋。
<方針>
コンシューマRPG的な物語性のあるRPGを
楽しんでもらう。
ただコンシューマRPGをコピーするだけでは
スマホでやる意味がないので、
スマホだからこその体験を作り上げて、
コンシューマRPG以上の面白さにする
掲げる方針はシンプルだが、この回答となるといろいろと考えられるため、最適解を見出すことは難しい。著者はここで、
「カード=生きたキャラクター」として
感じられるゲームにすることで、
コンシューマRPGでも生み出せない
”自分だけの仲間と出会いと物語”
を体験してもらう
という形に落とし込んだ。これが発明であり、最重要な核となる。
キャラクターの数だけそれぞれ異なるストーリーを用意するなど、考えただけでその物量、クオリティコントロールにぞっとするが、「物語を体験してもらう」を軸に、様々な設定、仕様、施策が考えつくされている。無事リリースに至り、ユーザーからも圧倒的な評価を受けるが、物語の常として「終わり」が来るわけで、いかにしてそれを乗り越えていくか、というのがゲーム本編以上にドラマチックに書かれている。このあたりはぜひ、本書を手に取って確認していただきたい。
ということで、数少ない現在サービス中のゲームの、現役ディレクター書下ろしによる「ゲームの作り方」の本です。未プレイの方も、おススメです!