ゲームの小説:その1
早いものでもう2月も半ば。趣味と実益を兼ねたゲーム関連書籍の紹介、というテーマでお気に入りの本をとりあげている本コーナー、今年の一冊目はゲームの開発者が主人公という珍しいお仕事小説です。
ゲームを題材にした小説、というとMMO-RPGの世界にVRマシンなどを用いてログインし、ゲーム内の仮想空間で大活躍、といったフォーマットが大人気。メジャーどころでは刊行から10年以上経過した現在もアニメ、ゲームなど多くのメディアで展開中の『ソードアート・オンライン』などは、日本のみならず世界的な人気作品であろう。Oculus創業者のパルマー・ラッキー氏も『ソードアート・オンライン』、『攻殻機動隊』などの大ファンでこれら日本の作品に刺激をうけ、VRの道へ進んだのは有名な話。
かたや「ゲーム開発という仕事」を題材にした小説は、自分が知る限りほとんど存在しないのでは、という印象がある。平たく言うとPCにむかって一日中プログラムを書く、グラフィックデータを作成するのが延々と続くのがゲーム開発なので、メリハリもドラマもなく、小説の題材にするには不向きであろうことは身をもって理解できる。実際は楽しいんですよ!あくまでイメージの話。そんな難しそうな職場をエンタメ小説にしたのがコチラ!
『レトロゲームファクトリー』
柳井 政和 (著)
内容紹介より引用。
過去のゲームを最新機用に移植する会社「レトロゲームファクトリー」。その社長・灰江田直樹とプログラマー・白野高義の元に大口の依頼が舞い込んだ。伝説的ファミコンゲーム、UGOコレクション10本の復活プロジェクトだ。だが開発者は最後の作品の権利のみを買い、失踪していた。一体何故か。横取りを狙う大手企業を抑え、封印ゲームを復活させよ! 現役プログラマーが贈るお仕事小説。
レトロゲーム(以下、レゲー)の移植をメインに行う会社の社長が主人公!なんというニッチさ!(すみません、褒めてます)ゲーム開発というと、まずオリジナルの企画を作成するためにアイデア出しに苦労し、その後、開発費を得るために周りを説得するところで苦労、開発に入っても思い通りに進行せずにまた苦労、と生みの苦しみ的なエピソードが中心になるかと勝手に想像していたのだが、「昔大ヒットしたレゲーの移植」というテーマに絞ることで、移植の難易度、すなわち技術的な問題と版権処理という点に集約されており、とても読みやすい。
物語の構造はゲーム開発を中心にしつつ、生きる術として仕方なくレゲー移植を専業としている変わり者な主人公に集う仲間(若手ながらレゲーの知識に異常に詳しいプログラマ、すでに業界を引退した伝説的なゲームデザイナーなど)と、ゲームに対する目指す方向性が異なることから徹底的に敵視してくるライバル(利益第一主義なプロデューサー、主人公の元同僚)が仕掛けてくる様々な嫌がらせと、それに立ち向かっていきながらゲームを完成させていくという話。みんな大好き『半沢直樹シリーズ』的な感じ。
本文より、感銘を受けた部分を引用。(P.141)
>物を作るってのは能力じゃなくて業だ。作るなと言われても勝手に作ってしまう。そういうものがない奴はクリエイターになれない。
かくありたいのだが、なかなかその域に達するのは難しくて…
作者は実際にゲーム制作に現在も携わっている現役プログラマーの方だそうで、ゲーム開発に関する説明や技術的な注釈がいずれも非常に正確であり、違和感が全くない。とはいえ、あまり専門的な話に行きすぎない匙加減が絶妙。読み終えた後、ゲーム開発者の心意気、作品に対する心構えなどが一番伝えたかったことなのかな… ええ話や… と、ウルっときてしまった。モノづくりに携わる方はぜひ一読を。おススメです!