BOOK OF THE YEAR 2018
シャチョーの趣味と実益を兼ねたゲーム関連書籍の紹介、というテーマで昨年の10月から始まった本コーナーもスタートから1年強が経ちました。取り上げた本は約20冊。技術書からマンガ、小説などなるべく幅広い種類の本を選んできたつもりです。はたしてこのブログを読んでいる人が何人いるかはわかりませんが、手に取っていただく機会となれば、これ幸いです。今回は年末らしく、2018年私的ベストゲーム関連書籍のご紹介です!
個人的に本を読みだして面白い箇所が多いな、と感じた時は付箋を貼るようにしている。気になるセンテンスを後から見つけやすくするためだ。全ての本で行うわけではないので、本棚を見渡して付箋が貼ってある本は自分にとって面白いものであり、付箋の量に比例して気になる箇所が多いということになる。
ということで、この数年で一番付箋をたくさん貼った書籍が今回の一冊。
『セガ vs 任天堂――ゲームの未来を変えた覇権戦争 』上下巻
ブレイク J ハリス (著)、 仲 達志 (翻訳)
過去にもセガと任天堂の関係性について書かれた書籍は多く、本の名前もそのものずばり、『セガvs任天堂』という同一タイトルで数冊発売されている。読み手も書き手も、セガは永遠に任天堂のライバルであり、追いつき、追い越す対象というスタンスで共通認識がそこにあるのでは、と推測する。
時代は1990年前後。任天堂はアメリカにおける家庭用ゲーム機(NES、日本名ファミリーコンピュータ)市場の90%超を握る圧倒的な存在であった。セガもゲーム機を出していたが鳴かず飛ばず。8bit機での巻き返しは難しいと判断し、セガは次世代機で勝負をかける。その責任者として三顧の礼で招かれたのが、マテルというおもちゃ会社でバービー人形を世界的なヒット商品に育てあげたトム・カリンスキーなる人物で、本書の主人公。
弱者が強者に知恵や結束力、ゲリラ的な戦法で立ち向かい、打ち勝つストーリーは古今東西、人気がある王道ストーリー。圧倒的弱者のセガのもとに、次々と魅力的な人材が集合し、奇跡的に出来の良いソフトが開発され(本書では『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』)、従来と全く異なるマーケティングプランが実行され、「NESは古くて子どものおもちゃ、GENESIS(日本名メガドライブ)こそクールなゲーム機」というイメージの植え付けに成功し、シェアを逆転していく過程が書かれた上巻がとにかく爽快。
続く下巻は長い凋落が描かれる。一度は覇権を握る最大のチャンスを得たセガだが、任天堂もやられっぱなしではない。虎視眈々と巻き返しを図り、徐々に力を取り戻していく。またも任天堂の天下になるか、と思いきや、第三極として突如現れるのが『プレイステーション』発売前のソニー。本書の最終章の見出しは「ゲームオーバー」、プレイステーションとセガサターンが北米で発売され、販売状況で大差がついたところで幕を閉じる。
ゲーム業界が舞台のドキュメンタリーなので、そういった知識があったほうがもちろん楽しめるのだが、前述した通り、圧倒的に巨大な敵に弱者が立ち向かうストーリーなので読み物として大変に面白い。本書でも任天堂=帝国、セガ=反乱軍的な、スター・ウォーズに見立てた表現が出てくる。一方的に悪の帝国のようなイメージを植え付けられた任天堂は甚だ災難であろうが。あるいは任天堂、セガ、ソニーと三者が覇権を争う姿はあたかも任天堂が魏、セガが蜀、ソニーが呉と「三国志」のような読み方もできる。
本書は発売早々、アメリカで映画化決定との報があったのだが、その後、オリジナルドラマ化へと変更されたようである。そちらも大変楽しみ。
2018年ベストといいつつ、刊行が2017年3月なのだが昨年は振り返るタイミングもなかったということでご容赦を。上下巻で800ページほどと読み応えたっぷり、年末年始の長いお休みにはぴったりの一冊。おススメです!