テトリスの本
つい2週間ほど前、PS4で『テトリス』の新作が発売された。タイトルは『テトリス・エフェクト』、『Rez』や『ルミネス』など数々の独創性の高いゲームをリリースしている水口哲也氏の最新作である。最大の特徴はVR対応。「VRでテトリス?」と疑問に思い浮かぶ人も多いかもしれないが、『Rez』から始まる電脳ドラッグここに極まれり、という感じで本作もドーパミンがどばどば出まくる一作になっているらしい。
実は全く同じタイトル名で、約1年前にテトリスに関する本が発売されていた。それが今回取り上げる、『テトリス・エフェクト 世界を惑わせたゲーム』。
『テトリス・エフェクト―世界を惑わせたゲーム』
ダン・アッカーマン (著)
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テトリスといえば、おそらく世界で最も有名なゲームの一つであることは間違いないであろう。4つの正方形で構成された7種類のブロックが画面上部から落ちてきて、プレイヤーがブロックを移動や回転させ、隙間なく積んでいくアクションパズルゲームである。落ちモノゲーム、いわゆる「落ちゲー」というジャンルはテトリスから始まった。ジャンルそのものを生み出した、ゲーム史において非常に重要なゲームなのである。
本書の帯には
「史上最も売れたゲームの誕生秘話」
とある。
わりと有名な話だと思うのだが、そもそもテトリスはソビエト連邦(現ロシア)という社会主義の国で生まれたゲームである。1980年代、アメリカやヨーロッパの資本主義国とソ連はまだ冷戦の中にあり、入国することすら難しかった。共産主義の謎多き大国であるソ連発のゲームが、一部の好事家の間で評判となり、ゲームの権利化を求めて世界規模での激しい情報戦が繰り広げられた。再び帯から引用。
>1989年、任天堂がソ連へ送り込んだ一人の男ー
>目的はゲームボーイ版テトリスの発売権獲得だった。
>ソ連政府との駆け引き、日米英ライセンス争い、法廷闘争…
>史上最も売れたゲームの驚きの誕生秘話。
まんま、スパイ映画ではないかと。一冊の本になるほど、テトリスが世の中に出るまでのストーリーは波瀾万丈、魅力的なのである。
本書には二人の主人公が登場する。一人はテトリスの開発者、アレクセイ・パジトノフ氏。ロシアのアカデミーに所属する研究員である彼が、プログラム開発の片手間に作ったのがテトリスの原型であった。いくら世の中で評判となっても、共産主義国家ゆえ、彼の懐には全く入ってこない。もう一人の主人公はヘンク・ロジャース氏。日本初のRPGと言われる『ザ・ブラックオニキス』の開発、発売を行った人物。ヘンク氏自身はプログラマーであったが、それ以上に非常に嗅覚、商才に長けた人であり、テトリスの起爆となったゲームボーイ版のライセンス交渉を極秘の命で任天堂に代わり、単身ソ連に乗り込んで行うのがこの本のハイライトとなっている。
登場人物が多いことや、今は存在しない海外のゲーム会社が多数登場するなど、昔のゲーム業界の知識があったほうが楽しく読めるが、それを抜きにしてもドラマチックな展開にぐいぐいと引き込まれていく。パジトノフとロジャース、二人のサクセスストーリーという側面と、80年代、90年代のコンピューターゲーム史という異なる観点から楽しむことも可能。
あとがきには
>テトリスは新たに登場してくるさまざまなプラットフォームに
>対応しており~中略~また最近流行りの「VR(仮想現実)」
>についても、すでに取り組みが始まっているそうである。
とある。これがまさに、冒頭で触れたPS4版『テトリス・エフェクト』であろう。
なんとハリウッドで映画化(しかも三部作!)も予定されているらしく、テトリスエフェクト(影響)はどこまで続くのか、とても興味深い。おススメです!